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奈良地方裁判所 平成6年(ワ)207号 判決 1997年4月16日

主文

一  被告は、原告甲野花子に対し、金二三五万円及びこれに対する平成六年五月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告乙山松子に対し、金五八五万円及びこれに対する平成六年五月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、被告の負担とする。

五  この判決は、原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  原告らの請求

一  被告は、原告甲野花子に対し、金二五九万円及びこれに対する平成六年五月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告乙山松子に対し、金六三三万円及びこれに対する平成六年五月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告の信者らの違法な献金勧誘行為により、原告らが損害を被ったとして、被告に対して、民法七〇九条又は七一五条に基づき損害賠償を請求している事案である。

一  争いのない事実

被告は、昭和三九年に設立登記された宗教法人であり、その母体である世界基督教統一神霊協会(以下「統一協会」と略称する)は、文鮮明を創始者として昭和二九年(一九五四年)ソウルで設立された宗教団体である。

二  争点

本件の主たる争点は、被告とその信者組織との同一性の有無、その献金勧誘システムの違法性の有無、これらが肯定された場合の原告らの損害である。

〔原告らの主張〕

1  被告の組織について

(一)  被告の母体である統一協会は、文鮮明を教祖として国際勝共連合などの政治団体、世界平和教授アカデミーなどの文化団体、世界日報などの言論機関、ハッピーワールドなど数多くの営利企業を運営している。

その一方で、被告は、全国を一三ブロック(北海道・東北・関東・東東京・西東京・北東京・南東京・中部・東関西・西関西・中国・四国・九州)に分けて各ブロックにブロック本部を置き、東京・千葉・埼玉・神奈川の各都県においては、前記東・西・南・北の各東京ブロックの下に合計二〇以上の地区を置いて、信者を所属させている。

被告においては、本部の下にブロック、地区及び原理研究会を通じた指揮命令系統があり、文鮮明をはじめとする統一協会幹部の指示が末端の信者まで貫徹する体制が作られている。また、この指揮命令系統は、後述する「経済活動」によって末端の信者組織が集めた資金を、被告を通じて文鮮明の下へ集約する体制ともなっている。

(二)  奈良地区の組織について

奈良地区には、以前、被告の経済部門として、有限会社天馬堂、有限会社大和一、有限会社明日香興産、有限会社春日屋が存在し、いずれも壷、多宝塔、朝鮮人参濃縮液等を売りつける霊感商法を行っていた。

また、霊感商法を盛んに行っていた昭和六二年ころまでは、原告甲野が連れて行かれたリバティービルには、被告の運営する「大和の会・大和会館」の看板が掲げられていた。被告は、霊感商法の被害者である主婦等からキャンセルが出ないよう、また、さらに別の物を購入させるために、霊感商法の顧客を同所へ誘い、ビデオを見せるなどして、因縁による恐怖等の持続とその強化をしていた。

奈良カルチャーセンターは、壷、多宝塔等を売りつける霊感商法が社会の強い非難を受けてできなくなった後に、看板をすげ替えたものである。

(三)  東大阪地区の組織について

平成五年ころ、東大阪ブロックのブロック長であった佃育也は、昭和六二年ころには、前記有限会社大和一、有限会社明日香興産、有限会社春日屋に関係して活動していた。同人は、有限会社春日屋の代表取締役に就任し、有限会社明日香興産、有限会社大和一と霊感商法の被害者との示談交渉に関わっていた。

(四)  カルチャーセンターの役割

被告の伝道活動の方法は、被告の信者らにおいて、正体を隠して婦人や青年に近づき、「宗教ではない」「勉強するところ」などと称してカルチャーセンターに通わせ、そこで、ビデオや担当者との話を通じて因縁の恐ろしさを繰り返し教え込み、次第に被告の教義を教育し、一連の教え込みを通じて、被告への献金を決意させ、あるいは新たな信者としてカルチャーセンターの活動等に協力させるというものである。カルチャーセンターは、その施設の形式上の管理者が被告ではなく被告の信者であったとしても、その実体としての役割は、被告の伝道・集金システムの重要な一環をなすものである。

(五)  上命下達の関係

被告による信者操縦の重要な特徴は、絶対的な上命下達が命じられており、かつ、それが現実に守られているということである。

被告の信者は、上司に毎日の出来事や思考を必ず報告・連絡・相談しなければならないとされ、縦の関係が重視される。逆に自分で判断したり、同じ立場の信者同士で不平不満を語ることは「悪魔が入り込む」あるいは「罪」として禁じられている。末端の信者は「完全服従・絶対服従」の体制下に置かれているのである。

このような体制を支えるものの一つは、被告の「カインとアベル」の教えである。この教えは、神は堕落した人間の救済のための最初のチャンスとしてカインとアベルを地上に遣わしたが、カインがアベルに従わずアベルを殺したために、失敗してしまった。それゆえ神の救済を実現するためには、カイン(一般信者)はアベル(上司)に絶対服従しなければならないというものである。

もう一つは、信者あるいは信者にしようとする相手方に対し、繰り返し同じことを教え込み、かつ、時間的にも自分で考えるゆとりを与えないように管理して行くことである。

その結果、被告の信者となった者は、被告の指示するままに、これを疑うことなく、むしろ「善」と盲信して「伝道活動」や「経済活動」に従事することとなる。

2  霊感商法をはじめとする「経済活動」

被告の信者が被告の指示により行う活動の究極の目的は、「経済活動」と称する被告の資金獲得活動である。

この信者の「経済活動」を支える理念は、被告の「万物復帰」という教義である。すなわち、この世の万物(財産)は本来神のものであったが、人間が堕落した結果、万物がサタンのものとなった。そのため、万物を神の側(文鮮明)に取り戻すことによって、神の側に近づき、被告信者もそして万物を所有していた者もそれと知らずに神に近づくことができ、ひいては地上天国の実現につながるというものである。加えて信者には、サタンの側に支配されている被害者に対しては、嘘をついてでも被害者の有する万物を神の側に取り戻すことが信者の使命であり、これが被害者を救うことになるとの思い込みが強いられる。

右の教義のもと、被告の信者らは、「霊感商法」といわれる方法、すなわち、被告が右販売のために設定した会場において、霊能師役の者が被告のマニュアルに従い、先祖の因縁話等で被害者に恐怖感を植え付け、そこから救われるためには壷や多宝塔を買うしかないように執拗に思い込ませ、多額の金銭を出させるという方法で、壷や多宝塔を高額で販売した。

右商品の輸入、卸、販売については、一応被告とは別個の会社により行われていた。

しかし、明らかに卸元会社を異にするはずの複数の末端販売会社間で人事異動がなされていること、社員のほとんどが「ホーム」と呼ばれる被告信者の共同宿泊施設に居を定めていること、販売方法や苦情処理方法までがマニュアル化されていることからすれば、「霊感商法」は、被告により組織的一体的に行われているものである。

3  献金勧誘システムの違法性

一般に特定宗教の信者が存在の定かでない先祖の因縁や霊界等の話を述べて献金を勧誘する行為は、その要求が社会的にみても正当な目的に基づくものであり、かつ、その方法や結果が社会通念に照らして相当である限り、宗教法人の正当な宗教的活動の範囲内にあるものとして、何ら違法でないことはいうまでもない。しかし、これに反し、当該献金勧誘行為が右範囲を逸脱し、その目的が専ら献金等による利益獲得にあるなど不当な目的に基づいていた場合、あるいは先祖の因縁や霊界等の話等をし、そのことによる害悪を告知するなどして殊更に相手方の不安をあおり、困惑に陥れるなど不相当な方法による場合には、もはや当該献金勧誘行為は、社会的に相当なものとはいい難く、民法が規定する不法行為との関連において違法の評価を受けるものといわなければならない。

被告の献金勧誘行為は、その目的、手段、方法、結果のいずれの点においても、正当な宗教的活動とは到底認められず、社会的相当性の範囲を逸脱する違法なものである。

(一)  被告による献金勧誘の具体的方法は、概ね次のとおりである。

すなわち、霊感商法におけると同様に、被告の信者は、宗教であることを秘して、手相や姓名判断を口実に、被害者との接触を図り、その悩みや不安、心配事を聞き出し、それが先祖の因縁によって生じているなどと言って、被害者をカルチャーセンターに勧誘する。カルチャーセンターでは、被害者ごとに担当者が定められ、「先生」役の信者が、家系図等を用いて、先祖の因縁と被害者の現在の悩みや不安が関係していることを改めて説明する。他方、担当者は「先生」を権威づける言動を行い、あるいは被害者の横に張り付いて「先生」のトークを援助し助長する。そして、継続してカルチャーセンターに通う被害者に、先祖の因縁の存在やこれに対する恐怖心を植え付けるようなビデオや講義を繰り返し行い、因縁を断ち切らないと現在の心配事が解決せず、将来に因縁が継続するかのように被害者をして思い込ませる。その上で、このような心理状態に追い込まれた被害者に対し、その心理状態に乗じて献金を求め、またはさらに献金しないと因縁が断ち切れず不幸が起こるなどと害悪を説き、執拗に献金を求めてその決意をさせる。

(二)  被告の献金勧誘の目的は、「霊感商法」と同様に資金獲得のみを目的としたものであり、社会的相当性を逸脱するものである。

被告への献金については、目標(ノルマ)が設定され、被告の信者はこれを達成するために、被害者への働きかけや新たな被害者の発掘を行っている。この点も「霊感商法」と同様である。

被告は、効率的に献金を獲得するため、カルチャーセンターに通い始めた当初の段階で、亀の甲アンケートを用いたり、被害者と話をする中で、貯金等の財産の有無、額等を把握し、これを前提に要求する献金額を決定する(甲二三の四六頁の「環境浄化」も同一の目的によるものである)。また、被告においては、被害者に献金を決意させることをクロージングと呼ぶが、カルチャーセンターでは、被害者ごとにこのクロージングに向けた教育予定を組み、そのスケジュールに従った教え込みがなされていく(甲一六六添付のスケジュール表)。

(三)  被告は、宗教であることを秘し、あるいは宗教との関わりを否定して被害者に接近し、被害者をして宗教に対する警戒感を起こさせずにカルチャーセンターに通わせ、因縁や霊界等を繰り返し教え込み、精神的に統一協会の教義を拒否できない心理的状況に追い込んだ後に、統一協会や文鮮明の存在を明らかにし、献金を勧誘する。

このように、正体や目的を隠して、あるいは積極的に虚偽の主体や目的を装って被害者に接近する方法は、それ自体として被害者の自由な判断を妨げる欺罔行為である。また、信教の自由は、国民にどのような宗教を信仰するか否かを含め、信仰・宗教に対し、どのような態度・関わりを持つか否かの自由をも保障しているから、右献金勧誘方法は、宗教の自由な選択を奪う点で、信教の自由を侵害するものでもある。したがって、社会的相当性を逸脱するものである。

ちなみに、訪問販売法三条は、訪問販売を行う者に、その相手方に対し、事業者の氏名及び商品又は役務の種類を明示することを命じて、商品購入者の自由な意思による自由な判断を保護しようとしている。この立法趣旨に照らせば、利益獲得目的で献金勧誘をするにあたっては同様の義務が課せられるべきであり、これを履行せず、むしろ積極的に虚偽を装う被告の勧誘方法は明らかに社会的相当性を逸脱するものである。

(四)  被告の一連の献金勧誘行為は、先祖の因縁という存在の不確かなものを殊更に強調し、これによる害悪があることを申し向けて被害者の不安をあおり、困惑に陥れ、自由な判断が不可能もしくは著しく困難な状況に追い込んで献金を決意させるものであり、それ自体脅迫又は詐欺に該当する違法行為である。

仮に、献金を決意させた際の信者らの言動のみを取り上げたときには、明らかに脅迫又は詐欺に該当するとは認め難い場合であっても、正体や目的を隠されたまま、因縁の存在や恐怖を繰り返し教え込むという、継続しかつ計画された一連の献金勧誘行為(いわゆるマインドコントロールの手法によるものである)は、脅迫又は詐欺等の違法行為と評価されなければならない。

勧誘行為を行う信者らも、因縁による害悪を告知するについて、これが真実と異なることは十分に認識している。ただ、勧誘行為を行う信者らは、被告の教義によって、虚偽の事実を言っても献金をさせれば被害者が救われると盲信しているに過ぎず、不法行為の要件に欠けるところはない。

(五)  被告の献金勧誘の手続は全国共通でマニュアル化されており、この過程で用いられる手相占い、姓名判断、家系図といった手法や利用されるビデオ等もすべて同一であることなどからすれば、被告により組織的統一的に行われているものである。

(六)  また、右のような勧誘に従って、極めて多額の、時には被害者の財産のすべてを献金させている点においても、社会的相当性を逸脱するものである。

被告は、宗教団体あるいは統一協会であることを秘してカルチャーセンターに通わせ、ビデオを見せ、献金の直前になって初めて統一協会であることを明かすという方法をとりながら、勧誘からわずか一、二か月後に主婦らから何百万円もの多額の献金をさせており、これが、同人らの自由意思によるものであり、社会的常識の範囲内にあるとは到底考え難い。

このような社会的に理解可能な限度を超えた献金の金額は、それ自体勧誘行為の違法性を強く示唆するものである。

(七)  さらに、カルチャーセンターに通っていることを他言することを禁じるなどして翻意阻止の手だてをしている点、人の不安を執拗かつ最大限に利用している点で人権侵害的な勧誘方法である。

4  本件献金勧誘行為と原告らの損害について

(原告甲野について)

(一) カルチャーセンターへの勧誘

被告の信者である和泉由紀(以下「和泉」という)は、平成四年五月二六日、原告甲野宅を訪問して、原告甲野に対し「いいお顔の相してますね」「手を見せて下さい」「心配事があるみたいですね」などと言った。これに対し、原告甲野は、夫が原因不明の病気にかかり闘病生活の末、四か月前の平成四年一月二六日に死亡したこと、自分も看病疲れのため胃潰瘍になり、同年二月三日から同年三月四日ころまで入院していたこと、長男が三〇歳を越えてもまだ結婚が決まらないことなどの事情を話した。

すると、和泉は、原告甲野に対して「悪いことが続いたりするのは、因縁というものがあるからだ」という趣旨のことを言い、「今勉強することによって、因縁が取れるんですよ」「新大宮の明るい喫茶店のようなところで、みんな勉強に来てるんですよ」などと言った上で、奈良カルチャーセンターへ通うように勧誘した。

この際、和泉は、自分が被告の信者であること、奈良カルチャーセンターが被告の施設であることを全く告げず、宗教との関係を明確に否定していた。また、将来、原告甲野に献金をさせたり、被告の信者とする目的があることも秘していた。被告は、このような方法を、勧誘行為を行う際のいわばマニュアルとして各信者に徹底させていたものである。

(二) 奈良カルチャーセンターにおける教育

原告甲野は、和泉の前記勧誘により、平成四年五月二七日に奈良カルチャーセンターを訪れた。

そこで、原告甲野は、「先生」と呼ばれる男性から求められて、趣味や貯蓄額を明かし、家系図を作成するなどした。「先生」は、原告甲野の家系図を見て、「お金ばかりに執着する家系や」「そんなんやから子供ができない家系なのや」などと言って、勉強により因縁を取り除くことの必要性を強調した。原告甲野は、同日以降、同年七月一八日までの間、二六回にわたり、奈良カルチャーセンターに通った。その内容は、因縁の存在、恐怖を信じ込ませるようなビデオを見せ、家系図を用いた「先生」役のトークにより受講者の因縁に対する恐怖をさらに高めるというものであった。

この段階においても、原告甲野は、奈良カルチャーセンターが被告の施設であることを全く知らされてはいなかった。

原告甲野が、統一協会ないしは文鮮明について明かされたのは、二一回目の受講日に当たる平成四年七月一七日のことである。

(三) 献金

同年七月二三日、阪奈ビル六一〇号室において、溝口妙子(以下「溝口」という)、「先生」役の竹内弘美(以下「竹内」という)外一名(久保と思われる)の立会いの下、霊界解放の儀式が行われ、その後、竹内は、原告甲野に対し、石板を渡した。

さらに、溝口らは、原告甲野をマンション内の別室に連れて行き、そこで「今持っているお金は汚れたお金だから、せっかく霊界解放もできたことだし、それを全部神に捧げて下さい」「せっかく霊界解放できたのに、お金を神に捧げないと、また元に戻る」などと言って、献金を迫った。カルチャーセンターにおける教育で、因縁の存在、恐ろしさをたたき込まれていた原告甲野は、せっかく霊界解放できて因縁が取れてもお金を出さないと、また因縁が付きまとって、自分や息子らの身に悪いことが起こると言われ、「金を出す」と言わなければ帰してもらえない雰囲気の中で、恐ろしさから最終的にはお金を出すと言わざるを得なかった。

金額について、当初、原告甲野は五〇万円程度を考えていたが、事前に原告甲野の資産状態を把握していた溝口らは「それでは少ない、せめて(生命保険から受け取った金額の)半分くらいは出しなさい」と言い、やむを得ず二〇〇万円を口にした原告甲野に対し、さらに原理数を口実にして「(二〇〇万円は)悪い数字なので二一〇万円にしときなさい」と言って、献金額を決定した。原告甲野は、この日、阪奈ビルに、午後一時過ぎから外が薄暗くなるまで約六時間以上もの間とどめられ、献金するよう迫られていたものである。

結局原告甲野は、翌七月二四日、被告奈良教会において、右溝口を介して被告に対し、現金二一〇万円を交付した。

(四) 違法性

被告の原告甲野に対する献金勧誘行為は、以下の諸点において、社会的相当性を逸脱した違法なものである。

(1) 正体及び目的の秘匿

カルチャーセンターへの勧誘の当初においては、それが被告の施設であることを告げないばかりか、かえって宗教であることを明確に否定し、繰り返しの教え込みにより因縁の存在、恐怖を十分に植え付けた後に、初めてその正体を明かすというのは、欺罔行為に当たり、また、どんな宗教を信仰するか否かの自由な選択権を奪う点で信教の自由を侵害するものである。

したがって、正体及び目的を秘匿した献金勧誘行為は、社会的相当性を逸脱したものである。

(2) 手段の社会的相当性の欠如

被告の献金勧誘行為は、繰り返しの教え込みにより因縁の存在、恐怖を十分に植え付けられた者に対して、その恐怖に乗じて、献金をしなければ霊界解放ができず因縁がつきまとうなどと言って献金を迫っている点や、溝口ら三人によって、隔離された場所において長時間にわたり献金を迫っている点で、脅迫及び詐欺に当たる。

(3) 多額の献金

夫に先立たれ、パート勤務を行うにすぎない原告甲野に対して、二一〇万円という多額の献金を要求すること自体、被告の行為の違法性を示すものである。

(4) 以上の諸事情に加え、本件献金獲得に至るまでの行為が献金獲得に向けられた組織的、計画的行為であること、献金要求は原告甲野の悩み事、資産状態等について予め得られた情報を利用して原告甲野の不安をあおり、執拗に多額の献金の即決を迫る方法でなされていること、原告甲野は翌日すぐに実際の献金を行っていることなどの点を総合考慮すれば、被告の信者らが行った原告甲野に対する一連の行為は、その目的、方法、結果において、社会的に相当と認められる範囲を逸脱した違法なものと評価されるべきである。

(五) 損害

(1) 献金 二一〇万円

(2) 弁護士費用 四九万円(ただし、日本弁護士連合会報酬基準による)

(原告乙山について)

(一) カルチャーセンターへの勧誘

被告の信者であった丙川春子(以下「丙川」という)は、平成五年六月二四日ころ、かつての職場の同僚であった原告乙山に対し「占いをしてもらわないか」などと言って、東大阪市枚岡のマンションへ行くように勧誘した。

原告乙山は、右誘いに応じ、同月二六日、同マンションに行き、占い師と名乗る女性から「家系図を見てもらったら」などと言われ、翌二七日、右マンションにおいて、占い師に家系図を見てもらった。家系図を見た占い師は、原告乙山に対し「先祖が今までの恨みのようなものを持っていて、子供ができない」「色情因縁がある」「子供ができないのは、両方の家系が『絶家』に入っているからや」「お父さんの未入籍の先妻さんが、あなたのお母さんの不幸を半分持っていってくれたんや。だからお母さんは半身不随だけで済んだのや」などと言って、原告乙山に子供ができないこと、原告乙山の母が障害者であることは因縁によるものであることを強調した上で、その因縁を解き放ち霊界を解放してやるためには勉強しなければならないことを、同席した丙川ともども原告乙山に強く説き、カルチャーセンターに通うことを勧めた。

これにより、原告乙山は、子供ができないことや、とりわけ母親の障害と因縁とを結びつける話に不安が募り、勧められるままに東大阪カルチャーセンターに通うことを決意した。

この際、カルチャーセンターが被告の組織であること、丙川らが被告信者であること、その目的が被告の信者獲得にあることなどは一切明かさなかった。

(二) カルチャーセンターでの教育

原告乙山は、同年六月二八日に、東大阪カルチャーセンターへ赴き、受講料名目で一〇万円を支払った。

同日、原告乙山は、貯蓄額の項目を含む亀の甲アンケート類似のアンケートに答えさせられ、同時に、丙川からカルチャーセンターに通っていることを夫にも内緒にするよう言われた。

その後、原告乙山は、ほとんど毎日のように東大阪カルチャーセンターに通い、ビデオを見たり、担当者山口幸子(以下「山口」という)と話をしたり、「先生」の話を聞くことを繰り返した。その受講内容は、別紙2記載のとおりであるが、最初の数回において、徹底的に因縁をたたき込むためのプログラムが組まれている。すなわち、家系図に表れた不幸な事柄は、先祖の霊、因縁に起因するのであり、因縁を取り除くには霊界解放をしなければならない、地獄へはこの世で犯した罪の痛みを永遠に持って行く、絶家因縁は霊界解放ができなくなるので絶家はおこしてはならないなどと因縁の存在、霊界解放の必要性、地獄の恐ろしさ、絶家への恐怖感等が強調されている。これにより、原告乙山は、霊界解放をしなければいけないとの強迫観念に駆られることとなった。

(三) 統一協会への入会

原告乙山は、同年七月二六日、当日のセミナーで初めて主体が被告であることを明かされ、被告への入会書に署名をした。

原告乙山は、当時のマスコミ等の報道で被告がインチキ宗教であるとの印象を有していたこともあり、主体が被告であることを明かされて著しく混乱した。しかし、約一か月にわたる教育で恐怖心を植え付けられていた原告乙山は、今勉強を止めれば因縁を断ち切ることができず、先祖が救われないと考えるようになり、主体が被告であることを知ってもこれを辞める決断ができなかった。しかも、丙川が原告乙山の気持ちを見透かすように「私も同じように不安を抱いたけれども大丈夫よ、そのうち信じられるようになる」などと、原告乙山に入会の決意を促したため、結局、入会書に署名するに至った。

(四) 献金

原告乙山は、同年七月二八日「万物と私たちの関係」という題のビデオを見せられた。このビデオは献金の前に必ず見せるビデオであり、この世の万物が悪側に来ていることを再認識させ、神側にお金を戻さないといけないと思い込ませる効果を有する。このビデオを見せた後に、丙川、山口らは、原告乙山に対し、「私は、一〇〇〇万やった。本当は言ったらいかんのやけど」「神に認めてもらうためには、自分の一番大切なものを捧げないといけない。今、人間にとって一番大事なものはお金でしょ」などと、献金をすることが必須であるかのごとく言って、献金を説得した。

霊界解放の日と指定された翌七月二九日、「先生」役の上西那美子(以下「上西」という)は、原告乙山に対し、「先祖が全員地獄にいる。恨みの世界にいる。そこから明るい世界に出ることを先祖が願っている。霊界解放が出来ればあなたも因縁を絶てる。子供にも恵まれ、生まれてくる子供も大丈夫です」と言い、献金の額として五二〇万円と七〇〇万円という金額を示して、今日中に献金をするよう迫った。さらに、同席をした山口らも「頑張りや、頑張りや」などと言って、献金をするようにあおった。

これにより、原告乙山は、霊界解放ができなければ、母が地獄へ行ってしまう、絶家となるなどと思い詰め、同日、直ちに郵便局の自己名義の定額貯金を解約した上、東大阪カルチャーセンターにおいて、上西及び山口を介して被告に対し、現金五二〇万円を交付した。

(五) 違法性

被告の原告乙山に対する献金勧誘行為は、以下の諸点において社会的相当性を逸脱した違法なものである。

(1) 正体及び目的の秘匿

カルチャーセンターへの勧誘の当初においては、それが被告の施設であることを告げないばかりか、かえって宗教であることを明確に否定し、繰り返しの教え込みにより因縁の存在、恐怖を十分に植え付けた後に、初めてその正体を明かすというのは、欺罔行為に当たり、また、どんな宗教を信仰するか否かの自由な選択権を奪う点で信教の自由を侵害するものである。

したがって、正体及び目的を秘匿した献金勧誘行為は、社会的相当性を逸脱したものである。

(2) 手段の社会的相当性の欠如

被告の献金勧誘行為は、繰り返しの教え込みにより因縁の存在、恐怖を十分に植え付けられた者に対して、その恐怖に乗じて、献金をしなければ霊界解放ができず因縁を解き放つことはできない旨言って献金を迫っている点で、強迫及び詐欺に当たる。特に、原告乙山に対しては、子供ができないこと、これまで身体障害者である母親に対して冷たい態度を取ってきたことに対する負い目があることに乗じて、因縁の存在や霊界解放の必要性がたたき込まれている。

(3) 多額の献金

五二〇万円という原告乙山の出捐可能な上限額に近い多額の献金を要求し、翻意熟慮の機会を与えぬよう当日中に献金をさせていること自体、被告の行為の違法性を示すものである。

(4) 計画性、組織性

被告は、原告乙山について、遅くとも平成五年七月七日の時点で霊界解放すなわち献金の日を同月二九日と設定し、それに向けたプログラムを組んでカルチャーセンターにおける教育を行ってきたものである。このことは、被告の目的が献金にあり、献金勧誘行為が計画的、組織的に行われていることを示すものである。

(5)以上を総合考慮すれば、被告の信者らが行った原告乙山に対する一連の行為は、その目的、方法、結果において、社会的に相当と認められる範囲を逸脱した違法なものと評価されるべきである。

(六) 損害

(1) 受講料 一〇万円

(2) 献金 五二〇万円

(3) 弁護士費用 一〇三万円(ただし、日本弁護士連合会報酬基準による)

5  被告の責任

(一)  使用者責任(民法七一五条)

被告は、被告の信者らによる原告らに対する違法な献金勧誘行為について民法七一五条に定める使用者責任を負う。

(1) 一般に非営利団体である宗教法人の信者が第三者に損害を与えた場合に、その信者が右宗教法人との間に被用者の地位にあると認められ、かつ、その加害行為が宗教法人の宗教的活動などの事業の執行につきなされたものであるときは、右宗教法人は、右信者の加害行為につき民法七一五条に定める使用者責任を負う。

民法七一五条における「使用」関係とは、使用者と被用者との間に実質的な指揮監督の関係があることを意味するものと解されるが、実質的な指揮監督の関係が認められれば、必ずしも使用者と被用者との間に有効な契約関係が成立していることを要しないものと解される。また、使用者の「事業」の範囲については、使用者の本来の事業のほか、その付随的業務とみられるもの、さらに不当な事業執行についてもこれに含まれるものと解すべきである。そして、被用者の行為が事業の執行につきなされたものであるかどうかは、事業の執行についての被用者の行為の外形から判断するのが相当である。

(2) 原告甲野の献金勧誘に関与した和泉、溝口、竹内ら、原告乙山の献金勧誘に関与した丙川、山口、上西らがいずれも被告の信者であることに争いはない。

原告甲野及び同乙山の交付した献金が被告のもとに受け入れられたことも明らかである。

さらに、本件献金勧誘行為は、被告の万物復帰の教義の実践に当たると被告の信者らは理解している。

(3) 被告の主張する信者組織なるものは、被告の言い逃れあるいは隠れ蓑に過ぎないことは前述のとおりであるが、仮に被告とは別個に信者組織が存在するとしても、信者組織が被告の教義を伝道し、同時にできるだけ多くの献金が被告になされることを目的としていること、伝道活動と献金勧誘行為とは密接に関連していること、勧誘の結果としての献金は被告の事業の財源となっていることなどからすれば、信者組織の活動が被告の意向と無関係に行われているとは考えられず、被告は信者組織を通じて伝道及び献金勧誘に際して違法な行為がなされないよう信者らを指揮、指導できる立場にあったものといえる。また、勧誘にあたった被告信者らの行為を勧誘される相手方の立場から外部的に客観的にみれば、被告の信者らが被告の教義の実践として被告の利益獲得のために組織的、計画的に遂行する行為であるといえる。

(二)  直接的不法行為責任

被告は、前記七一五条の責任とともに、自らが行った不法行為に対して民法七〇九条の責任を負う。

(1) 法人といえども、多数の人と設備を用いて一定の目的を追求し、その全体的活動によって他人に損害を与えた場合には、直接的な不法行為責任を問われるべきである。

(2) 前述のように被告が行っている献金に至るまでの勧誘行為は、全国的にマニュアル化された方法に従っていること、献金の獲得は被告の教義である「万物復帰」を達成する手段であること、被告は全国に八九教会を有し、各地にカルチャーセンター、関連会社を有していること、被告の各信者と地区幹部、各地区と中央組織との間には「アベル・カイン」、「ホウ、レン、ソウ」などの説諭に基づく上命下達の体制が維持されていることなどの事情に照らせば、本件は被告自身による不法行為と捉えることができる。

(3) さらに、被告自身が民法七〇九条に基づく不法行為責任を負う根拠として、各信者が被告による一種のマインドコントロールの結果、もはや被告の「道具」として献金勧誘活動を行っている点があげられる。

被告の信者らに要求されている絶対的な上命下達、マニュアルの徹底、被告の教義である統一原理を受け入れて身も心も被告に捧げるべく、仕事を辞め家族から離れてホームと呼ばれる場所で他の信者と共同生活をしながら被告のために活動を行う多数の献身者の存在、献金等の利益がすべて被告に帰属していることなどからすれば、被告の信者らは、被告の目的を達するために、いわば被告の道具として、本件のごとき違法な献金獲得活動を行ったものと評価しうる。

〔被告の主張〕

1  原告らの主張1の事実はいずれも否認する。被告の組織と信者の組織は別のものである。

(一)  被告の組織について

被告は、規則により責任役員会、代表役員、地区長会議、監事の各機関を設置し、責任役員会及び地区長会議で決定した事項の執行は代表役員が執行するが、その執行に当たっては、総務局、教育局、伝道局、出版局、渉外局などの本部各部局が担当している。

また、被告は、各都道府県に数か所ずつ教会を設置し(現在八九教会)、その地域の代表的な教会をブロック本部あるいは教区(現在五五教区)と呼んでいる。

(二)  信者の組織について

被告の大阪教会の信者で福寿堂という販売会社(特約店)の委託販売員であった者が、昭和五六年ころ、販売員と客との親睦の場として一つのサークル会を作り、その中で統一原理を伝道していった。これが信者の組織(ブロック)の始まりであり、被告の組織とは別の自然発生的に生まれた任意団体である。

同様の現象は同じころ、全国各地で起こり、それぞれ特約店の客を伝道する場としての個々のサークル会(「地区」と呼ばれるもの)ができ、各都道府県単位の地区が集ってブロックとなったのである(当時、そのような会を「しあわせ会」と呼んでいた)。このようなブロックは、昭和五八年当時は全国に八あったが、平成三年当時は一二に増えた。しかし、現在は右地区もブロックも存在しない。

ブロックにはブロック長、地区には本部長がいて、信者の要望や苦情などを集約していた。また、ブロック間を調整するための機関として中央本部(連絡協議会)があり、中央本部は、定期的に全国単位のブロック長会議を開催し、中央本部の本部長や古田コマンダー(信者の総代)が同会議において文鮮明の話や統一運動の話などを各ブロック長に伝えるなど、ブロックに対して指示や方針を出していた。しかし、各ブロックはこれに従う義務はなく、各ブロックの主体性に任されていた。

ブロック成立後は、中央本部の本部長やコマンダーが被告の代表役員や責任役員になったことは一度もない。

また、ブロックの外から指導を行うものとして、各地区において信者の心の悩みをカウンセリングする、マザーと呼ばれるカウンセラーを指導する心霊巡回師及び各地区の会計担当者を指導する会計巡回師という役職もあったが、いずれも、被告の役職ではない。

人事については、地区内、ブロック内、ブロック外の異動は、いずれも、本人の意思を確認の上、本部長ないしブロック長が決定していた。いずれの場合も被告の意思は介在しない。

(三)  奈良北信徒会関係

本件当時、被告信者の組織である全国しあわせサークル連絡協議会は既に消滅しており、原告甲野に関わったのは奈良北信徒会である。

奈良北信徒会には、平成四年当時、会員が約三〇〇人いた。これに対して、奈良北及び奈良南(会員数不明)両信徒会の所在地にある被告の組織である奈良教会は、その役職員が教会長、副教会長、総務部長及び会計のわずか四名であり、各自教会本来の業務で多忙であるから、信徒会を指揮命令したり、まして信徒の営業活動を指導したり、手伝ったりなどはできるはずがない。

したがって、被告の奈良教会と被告信者の組織である奈良北、南両信徒会とは信仰面の精神的つながりは別として、その他は完全に別組織である。

(四)  東大阪信徒会関係

同じく、本件当時、被告信者の組織である全国しあわせサークル連絡協議会は既に消滅しており、原告乙山に関わったのは東大阪信徒会である。

東大阪信徒会の会員数は不明であるが、その所在地にある被告の組織である東大阪教会は、その役職員が教会長、総務部長及び会計の三名のみであり、奈良教会の場合同様、信徒会を指揮命令したり、信徒の営業活動を指導したり、手伝ったりする関係にはなかったものである。

したがって、被告の東大阪教会と被告信者の組織である東大阪信徒会とは信仰面の精神的つながりは別として、その他は完全に別組織である。

(五)  アベル・カイン問題について

被告の信者個人は、被告の教義を信仰し、宗教的確信に基づいて、本人自身の自由な意思決定により、社会奉仕、伝道活動に携わるなど、宗教生活を送っているものであり、原告ら主張のように「カイン(一般信者)はアベル(上司)に絶対服従しなければならない」と指導している事実はない。

そもそも、カイン・アベル問題は、罪の根源であるアダムとエバの堕落に始まり、堕落した人類が再び神の前に帰って行くための善・悪の表示体としてのアベル・カインであり、基本的にはカインもアベルもアダムとエバの子供であって、いわゆる兄弟関係にあり、平たくいえば「神を中心に兄弟仲良くしなさい」という教えである。

したがって、カイン・アベルの教えは、原告らが主張するような人間を強制的に組織が縛り付け、自由意思に反した方向に人間を駆り立てるというような教えでは決してない。原告らは、カイン・アベルの教えを曲解している。

ホーレンソー(報告、連絡、相談)も被告の特質ではなく、すべての組織に妥当する原則である。実際厳守されているかといえば、一般組織と同じで厳守されているわけでもない。

2  原告らの主張2、3の事実は争う。

(一)  収益事業について

原告らの主張事実のうち、被告に関することは否認し、その余は不知である。被告らは「霊感商法」を含むいかなる収益事業も行っていない。

信者らが中心となって経営する会社が存在していたことは認める。例えば、株式会社ハッピーワールドという会社は、大韓民国の財団法人世界基督教統一神霊協会維持財団の中の会社(一信石材や一和など)から壷や多宝塔、高麗人参などを輸入し、これらを株式会社世界のしあわせ大阪などの卸売会社(信者の間では「販社」と呼んでいた)、その販売会社(「特約店」あるいは「代理店」と呼んでいた)を通して販売して収益を得ていた。これら販売に関わる会社においては、経営者も従業員も信者らが中心となり、統一運動に貢献するという目的のため一致団結して活動していた。会社の売上げは、商品購入代金の支払、設備投資、役員の報酬、従業員の給料などに使われ、会社の利益は、社内留保して事業の拡張に使われていた。被告の財源は信者の個人献金のみであり、会社の利益が被告に寄付されることはない。

会社の人事については、ブロック内、ブロック外の異動はいずれも、本人の意思を確認の上、ブロック長が決定していた。いずれの場合も被告の意思は介在しない。

(二)  万物復帰について

万物復帰というのは、人間が人間本来の価値を取り戻して万物を責任をもって主管し愛せよという教義的で内的な精神を言っているのであって、経済的活動を意味しているのではない。

被告は、献金を信者にお願いすることはあるが、信者らをして他の信者に対する献金の勧誘を指揮、命令している関係にはない。

(三)  献金勧誘行為の違法性について

原告らの主張事実のうち、被告に関することは否認し、その余は不知である。被告は、原告ら主張の勧誘、ビデオセンターでの伝道をしておらず、これらはいずれも信者組織が行っているものである。

(1) 勧誘

勧誘は被告の指示で行われるものではなく、信者の組織を単位として自発的に行われるものである。この勧誘は、知人を介して、あるいは、街頭や大学など様々な場所で行われる。

(2) ビデオセンター

これには二つのものがある。一つは、昭和五六年ころ成立した卸売会社の特約店(販売会社)の委託販売員とその客のサークル会において、親睦の場として一般教養や統一原理のビデオを見て勉強する場がビデオセンターに発展したものであり、他の一つは、青年サークル会の拠点で、勧誘された者に対して一般教養や統一原理のビデオを見せたり、自分たちでビデオを見て勉強する場がビデオセンターに発展したものである。

右施設はいずれも被告の信者らが借りたものであって、被告が所有管理するものではない。

(3) 正体、目的を隠した勧誘について

被告の伝道活動は、「ミッション伝道」とも呼ばれ、統一協会であることを当初から明かしている。被告は、信者に対し、その友人、知人等を最初から統一協会の礼拝に参加させるよう呼びかけており、初めて礼拝に参加した人については、礼拝後に紹介者から参加者全員に紹介している。

(4) 洗脳について

洗脳とは「個人の政治的態度や道徳的信念を変化させたり、ある特定の観点や行為をとらせるために、その個人の秘密を暴き、偽りの証拠を出し、個人を生理的、心理的に拘束条件下に置いて、強制的に説得すること」であり、強制(肉体的抑圧あるいは拘束)が絶対不可欠である。

原告らは、被告の信者組織による宗教上の伝道及び教育は「洗脳(マインドコントロール)」に当たり違法であり、この「洗脳」とは外界の情報を遮断し、教義が継続的にかつ徹底的に繰り返し教え込まれることによって、それ以外の考え方を捨てさせるための心理操作をいい、言い換えれば、被告の教えを絶対視して吹き込み、一切の検討、批判、疑問を捨てさせる強制的な説得技術であるとしている。

しかし、そもそも、本件において、ビデオやカウンセリングを通じて被告の教義の教え込みが繰り返されている事実はない。受講者に見せるビデオの内容は極めてバラエティに富んだ多彩なものであり、繰り返しの教え込みなどない。また、原告ら主張のように、肉体的抑圧あるいは拘束がなく、繰り返しの説得だけで強制といえるかは疑問であり、許される説得技術との限界が極めて曖昧であるから、思想良心の自由、信教の自由との関連で、その違法性判断は慎重に行われなければならない。このような宗教上の伝道及び教育を「洗脳」というのであれば、あらゆる教育、訓練、宗教にはすべて「洗脳」という概念に包摂される行為が存在することになるが、これらを違法と断ずることはできない。本件においては、原告らは、いずれも、自由な意思に基づいて被告の教義に触れ、これを信仰し、宗教的確信に基づいて宗教生活を送ってきたものであり、そこには一切の強制はない。したがって、原告ら主張の「洗脳」には当たらず、違法性は認められない。

また、原告らは、原告らを勧誘した被告の信者らも同様に「洗脳」されていると主張するが、被告の信者らは、自らの自由意思で宗教生活を送っているものであるから「洗脳」には当たらない。

(5) 信教の自由の保障について

信教の自由には、どのような宗教を信じるかという自由のほか、自分が何の宗教を信じているかということを第三者に表明する自由、又は表明しなくてもよい自由(信仰告白又は沈黙の自由)や、宗教伝道等を中心とする宗教活動の自由などが存在する。

布教、勧誘に際し、当初からいかなる宗教であるかを述べることにより、頭ごなしに対話自体(すなわち布教)が拒否される場合がある。このような場合には、当方の教えそのものを相手に伝える機会自体が全く失われてしまう。このような事態を避ける方法として、双方がある程度対話できる状況をまず作り、その上で当方の宗教を明らかにし、説明をした方がより良いという場合もある。故に、当初からある宗教を布教していること、いかなる宗教であるかを明かさないまま布教行為に及んだとしても、それが社会通念上違法性を問われるような行為に及んでいない限り(すなわち、公序良俗違反行為に及んでいないこと)、当初の段階で被告の宗教を明かさないまま布教に着手したとしても、それによって直ちに信教の自由を逸脱したということにはならない。それは、信教の自由の一環として、社会通念上許される布教活動方法の一つにすぎない。身体を拘束されない限り、勧誘された者は、いかなる宗教であるかを明らかにされた時点で、当該宗教から自由に離脱することができるからである。被告の布教、伝道活動の過程において、勧誘された者が途中から離脱した例は無数に存在している。

また、そもそも宗教は、信仰すれば(魂が)救われる、天国にいけるなどと言って伝道し、献金を求めるものである。しかし、それを逆手にとって、信仰しなければ(魂が)救われない、地獄に落ちると脅された、よって献金を返せという主張が通るのであれば、宗教の伝道も宗教自体も成り立たなくなる。

(6) 献金額について

原告らは、本件献金額が社会的常識を超えるものであると主張する。しかし、宗教、信仰の世界では全財産を献金する者があったとしても特異なことではなく、無宗教者、信仰心の薄い者にとっては理解できないだけである。現実に神社、寺院の本殿、本堂再建の際、一〇〇〇万円や二〇〇〇万円の献金は、珍しいものではない。

3  原告らの主張4の事実は争う。

(原告甲野について)

(一) 原告甲野の主張(一)ないし(三)の各事実のうち、被告に関することは否認し、その余は不知である。被告は本件献金勧誘行為に一切関与していない。

原告甲野の受講内容のうち、因縁や霊界に関する内容はせいぜい二、三割にすぎず、原告甲野は大半を占める他の話も熱心に受講しており、感想文や亡夫に対する手紙を見ても、受講内容を理解し、精神的に大きく成長した様子が明らかであり、また、因縁や霊界の話も前向きに受け止めており、後ろ向きに恐怖を感じ脅されたような様子は全く見受けられない。

そもそも国民皆教育を受けた現代の日本人が、因縁や霊界の話を聞いたところで、単純に恐怖を感じ、二一〇万円もの献金をするとは考えられない。

原告甲野は初歩的とはいえ、統一原理を熱心に受講して理解し、自由意思により献金をしたものであり、その後も長期間にわたって返金してもらおうという気持ちはなかったものである。

後日、他人から騙されたんですよ、脅されたんですよと言われて変心したことによる返還請求は認めるべきではない。

(二) 同主張(四)、(五)の各事実は否認し争う。

(原告乙山について)

(一) 原告乙山の主張(一)ないし(四)の事実のうち、被告に関することは否認し、その余は不知である。被告は、本件献金勧誘行為に一切関与していない。

別紙2記載の原告乙山の受講内容のうち「万物と私たちの関係」と題するビデオは被告が作成したものではない。

原告乙山の受講内容のうち、因縁や霊界に関する内容はせいぜい二、三割にすぎず、原告乙山は異常に熱心に受講していたものであり、母親の昔の心情が一段と分かるようになり、夫との仲も修復しかけるなど人間的に成長し、東大阪カルチャーセンターにおける被告信者らに感謝の気持ちを高めていた。

原告乙山は、理屈っぽいところがあり、見えない世界の話(例えば霊界)は自分で納得できるまでは前へ進まないという性格であること、当時のマスコミ等の報道で被告がインチキ宗教であるという印象を有していたことからすれば、原告乙山が被告であることを明かされた末に多額の献金をしたのは、東大阪カルチャーセンターに多数通い、被告信者と接するうち、マスコミの批判の方が誤りであり、被告は正しいと感じて納得して献金をしたものである。

原告乙山が突如被告信者と縁を切ったのは、確証はないが、反対派による拉致監禁、棄教強制によるものと思われる。

(二) 同主張(五)、(六)の各事実は否認し争う。

4  原告らの主張5は争う。

同(一)の事実について、被告は収益事業は一切していないし、信者らの営業活動につき指揮命令、指導監督などを一切していない。

そもそも東京都渋谷区にある本部教会は別として、その他の他方教会は奈良、東大阪各教会のように、役職員は原則として教会長、総務部長及び会計のわずか三名であるから、物理的に多数の信者等の営業活動を指揮命令等することは全く不可能である。

原告らは、献金勧誘行為そのものが被告の教義に基づく実践行為と主張するが、献金を受けたことは各宗教の存立のため、当然のことながら認められているにすぎないものであって、献金を受けることは教義ではない。

同(二)の事実について、原告甲野に関わった信者のうち和泉及び竹内はいわゆる献身者、ホーム居住経験者であるが、溝口は単なる家庭婦人であり、原告乙山に関わった小豆沢佳江、山口、中島、丙川及び上西は、いずれも献身、ホーム居住の経験はなく、単なる家庭婦人である。

第三 証拠《略》

第四 当裁判所の判断

一  被告とその信者組織

1  《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一)  人事面

(1) 昭和四九年の被告の機関誌「祝福」の「任地と責任分担」と題する一覧表によれば、被告は、昭和四五年の統一協会の合同結婚式に参加した七七七組の被告の信者らを、被告の人事により被告の関連会社や関連団体に配属させていた。

(2) 被告の信者徳野英治は、統一協会の学生部長、原理研究会の責任者、杉並の教会長を歴任している者であるが、被告と原理研究会との間の人事交流があることを認めている。

(3) 被告の東大阪教会教会長の佃育也は、印鑑等を販売する有限会社明日香興産や、壷等を販売する有限会社大和一に所属して活動し、また、人参茶等を販売する有限会社春日屋の代表取締役をするなど、被告の信者らによる物品販売活動において重要な役割を果たしていた。

(二)  資金面

(1) 被告は、過去において、被告の関連会社に資金を貸し付けるなどして右会社と資金的なつながりを有していた。

(2) 昭和四六年の被告の機関誌「成約の鐘」によれば、当時、被告の長野地区においては、物品販売活動により得た利益を経済基盤としていた。

(3) 被告の信者堀井宏祐、岡村信男は、献金の性格には、<1>教会に捧げる献金、<2>信者組織の中で施設等をまかなうための経費等のための献金、<3>統一運動に協力するための献金があるが、これまで被告の信者を通じて集められた献金は、右献金の種類を区別することなく、被告が受け入れてきた旨供述しており、本件においても、後記のとおり、原告甲野は、二一〇万円を被告の奈良教会に直接持参して献金している。

(三)  活動内容

(1) 昭和五七年から平成元年までの被告の機関誌「ファミリー」「祝福」によれば、文鮮明は、信者に対して、<1>信者は経済活動に励み、全財産に当たるものを文鮮明に捧げなければならないこと、<2>信者は文鮮明に絶対服従しなければならないことなどを命じていることが認められる。また、昭和五五年から平成二年の被告の機関誌「ファミリー」「祝福」によれば、被告の本部役員は、信者に対して、万物復帰を果たすよう繰り返し指示していることが認められる。

(2) 昭和四九年の被告の機関誌「成約の鐘」の「教会の活動方針」によれば、被告は、伝道した基盤の上にマナ(高麗人参濃縮液)を販売することが望ましいパターンであるとし、マナの販売ルートを確立し、そこに流すだけで万物復帰になる状態を理想としていた。また、同年の「成約の鐘」には、各地区のマナ販売活動の成果を掲載するなどしていた。

さらに、昭和四六年から平成元年までの被告の機関誌「ファミリー」等の記載によれば、被告の信者は、壷や人参茶の販売等の経済活動に奔走していたこと、全国各地区の教会において経済活動が行われていたことが認められる。

(3) 全国のブロック長会議や中部ブロック会議(昭和五九年開催)等において、文鮮明からの指示として、統一運動のための多額の資金集めの必要性と、日本における被告の資金集めの目標額(例えば、昭和六〇年から六一年ころには、一か月一〇〇億円など)が提示され、各ブロック長を通じて各地区の信者に伝えられていた。

(4) 昭和四六年の被告の機関誌「成約の鐘」によれば、被告の第二事業部が物品販売等を行う幸世商事株式会社になった。

(5) 時期は不明であるが、奈良市内のホーム(被告の信者らが共同生活する場所)内には、被告の信者が伝道した対象者の氏名、その弱点、ニード等を記載した表や、伝道した対象者の人数とその献金額を記載した実績表が張り出されていた。

(6) 全国的統一性

被告の伝道方法等については各種マニュアル等が存在し、概ね、<1>賛美し、心情交流をする、<2>アンケート、姓名判断、手相、家系図等を利用し、対象者の悩みを聞き出す、<3>様々な悪い現象は先祖の因縁によるものであるなどの因縁話や霊界の話をする、<4>ビデオセンター等へ来所させ、被告の教義ビデオ等を見せる、<5>被告への入会、物品の購入あるいは被告への入会、献金を勧誘するという手順を取ること、アフターケアーに重点が置かれていることなどの点で共通性がある。

具体的には、路傍伝道用マニュアルは、奈良県内のものと愛知県内のものが同一内容であり、トーク集は、愛知県内のものと松江教会のものが類似の形式であり、姓名判断の際に用いる因縁相は、東大阪教会と松江教会のものがほぼ同一内容である。また、献金等の前に、予め対象者の財産状態を把握することに重点が置かれている点にも共通性がみられ、新潟のビデオセンターにあった献金勧誘方法に関する講義ビデオ、西東京ブロックの献金トークのマニュアル中には伝道対象者の財産把握の方法についての記載があり、例えば、松江教会においては亀の甲アンケートが用いられ、東京第七地区においては、サミット表という資産家の信者が保有している不動産の担保価値等を把握するためのリストが作成されていた。

対象者らに対する献金等の勧誘行為は執拗に行われ、最終的に献金等の意思決定をさせる場面においては、複数の被告の信者らの連携により、勧誘行為が行われていた。

さらに、勧誘の当初については、被告及び文鮮明のことは明かさず、かえって宗教団体であることを明確に否定した上で勧誘を行い、ビデオセンター等において被告の教義等を教え込んだ後、献金の直前に被告及び文鮮明のことを明かすというのが常態であった。

(7) 元信者らの供述等

元信者らの供述によっても、被告における活動状況は、前述のとおり、目標額を定めて経済活動に奔走するものであったこと、伝道方法等は、マニュアル等で決められており、対象者の悩みを把握しこれに応じた因縁話をするなどして不安感を生じさせあるいは助長させ、予め対象者の財産状態を把握した上で物品購入や献金の勧誘を行っていたこと、勧誘の当初においては、被告や文鮮明との関わりを明確に否定した上で勧誘を行っていたこと、執拗な勧誘行為が行われていたことが認められる。

2  被告とその信者組織とは、当然のことながら後者は前者の構成員から成り立っており、人事面での交流もあること(前記認定(一))、被告は、これまで被告の教義に基づく実践として、組織的に物品販売活動等による資金集めを精力的に行ってきたものであり(前記認定(三))、その過程において、被告と被告の信者組織との区別が明確であったとはいえないこと、被告の伝道方法等についてはマニュアルが存在し、ほぼ全国共通の方法がとられていること(前記認定(三)(6))が認められる。

そして、本件で問題となっている献金勧誘行為は、被告の教義内容に照らして被告の宗教的活動としては最も基本的かつ重要なものであり、実際、被告は、信者を介して集めた献金を受け入れていたこと(前記認定(二)(3))からすれば、本件献金勧誘行為については、被告が被告の活動として行ったものであるといえる。

この点に関して、両当事者が主張する各組織図は、いずれが被告の組織の実態を正しく表したものであるか不明であるが、仮に、形式的には被告主張のとおりの組織構成であったとしても、前記認定のとおりの実質からすれば、被告は、献金勧誘行為が違法と評価される場合には、その不法行為責任を負うべき主体であると言うべきである。

二 被告の献金勧誘のシステムの内容

1  前記認定によれば、被告の献金勧誘のシステムは、<1>全国及び各地区において献金目標額が定められ、目標達成に向けて献金勧誘が行われていたこと、<2>伝道方法については、各種マニュアル等により全国的に共通の方法がとられていたこと、<3>伝道方法は、対象者の悩みを聞き出し、様々な悪い現象は先祖の因縁によるものであるなどの因縁話や霊界の話をした上、被告の教義ビデオ等を見せて教育するというものであったこと、<4>献金前に予め対象者の財産を把握することに重点が置かれていたこと、<5>献金直前まで被告及び文鮮明のことを明かさずに勧誘行為をしていたこと、<6>執拗な勧誘行為が行われていたことが認められる。

2  被告の万物復帰の教えについて

(一)  被告の研修教材「復帰摂理と万物」によれば、万物復帰とは、人間は堕落して万物より劣る存在となったので、万物を神の前に返し、万物を通じることによって初めて堕落人間を復帰させることができるというものであり、思想的には共生共栄共義主義を目指すものであるとしている。

(二)  被告の主張について

万物復帰の具体的実践方法につき、被告発行の「信仰生活と献金」中には、被告の教義においては、初代教会の原型を踏襲して、信者に対して一旦すべての物を神の前に捧げ、しかる後に生活に必要な分だけを神に授かるという精神を持ちながら、惜しむ気持ちからではなく、自発的に持てる限りを尽くして捧げることを奨励していること、捧げ物の程度について「収入の一〇分の一」とする聖書の考え方に対して、被告においては、収入の一〇分の一という伝統的な基準から一旦すべてを神の前に捧げ、改めて生活に必要な分だけを授かるという「出家的」基準まで、様々な基準が存在しえるものと考えていたこと、具体的な金額は、献金の本質が信徒各自の信仰と経済的事情に応じて自発的になされるべき性質で、絶対的なものとはなりえないとされていることの各記載がある。

また、岡村信男は、万物復帰とは、万物を神に捧げるために真心と信仰を尽くしていくことにより、本来の神の子としての愛と心情が復帰されて、本来の神の人間と万物の関係が取り戻されていくという考えであり、内的な精神を言い、具体的な実践としては、献金を神に捧げる際に真心を尽くし、神への精誠、信仰、愛の限り、感謝の限りを尽くし、その精誠の現れとしての、万物を捧げていきましょうという教えになると供述し、徳野英治、堀井宏祐も同旨の供述をする。

(三)  しかし、仮に、被告の万物復帰の教えの実践方法が理念的には前記(二)のとおりであったとしても、実際の場面においては、前記一で認定したとおり、被告の信者を物品の販売活動等の経済活動に奔走させて資金集めを行うというものであったことが認められる。

3  被告と霊感商法との関係

顧客を心理的不安に陥れ、印鑑、壷等の商品を市価よりも高額な代価で売りつけるといういわゆる霊感商法は、被告の信者らにより遅くとも昭和五〇年代初めから行われてきたが、昭和六二年ころにその被害が顕在化し、昭和六二年七月及び昭和六三年三月の日本弁護士連合会の「霊感商法被害実態とその対策について」と題する意見書において、多数の被害事例が報告されている。

被告は、霊感商法は被告の信者らの営利企業により行われたものであり、被告はこのような収益活動をしていない旨主張し、岡村信男も、被告は、東京都総務局行政部指導課から霊感商法問題につき信者に対して指導するよう指示を受け、株式会社ハッピーワールドに対して、委託販売についての自粛を昭和六二年三月一二日にお願いし、同年五月一日付けで同社から「昭和六二年三月末で「霊感商法」と誤解されるような販売は止めるよう関連業者に厳重注意すると共に、株式会社ハッピーワールドは、壷、多宝塔の取扱いを以後止めている。また、厚生省、通産省、国民生活センターには、以後自粛するという旨を既に報告している」旨の回答を受けた旨、右被告の主張に沿う供述をしている。しかしながら、前記一で認定したとおり、本件で問題となっている被告への入会や献金の勧誘の過程においても霊感商法におけると同一の方法が用いられていることからすれば、前記被告の信者らの会社による霊感商法を自粛する旨の回答は、被告の霊感商法との関わりを否定して対外的な批判を交わすためのものと認められる。

三 被告の献金勧誘のシステムの違法性について

1  前記認定によれば、被告の献金勧誘のシステムの特徴として、<1>万物復帰の教えの下、個々の対象者からその保有財産の大部分を供出させ、被告全体としても多額の資金を集めることを目的とするものであること、<2>対象者がある一定レベルに達するまで、被告の万物復帰の教えはもちろんのこと、被告や文鮮明のことを秘匿あるいは明確に否定したまま、対象者の悩みに応じた因縁話等をして不安感を生じさせあるいは助長させる方法をとっていること、<3>各種マニュアル等による勧誘方法が全国的に共通していて、組織的に行われていることが挙げられる。

2  このうち、<2>の点は、被告への入会ないしは献金等を勧誘するに際し、入会ないしは献金等をしようとする者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、不実のことを告げ、また、被告への入会ないしは献金等をさせるため、対象者を威迫して困惑させるものであり、方法として不公正なものと評することができる。

3  信教の自由との関係

宗教団体が布教活動ないし献金勧誘をする行為は、宗教的信仰の外部的な表現である点で、信教の自由(宗教的行為の自由)の一部として憲法上保障されている。

しかし、本件のように宗教団体において、自らが宗教団体であることや当該行為が宗教的行為であることを殊更秘して布教活動等を行う場合においては、宗教的行為の一部であることが何ら外部には表現されておらず、宗教的信仰との結びつきも認められない単なる外部的行為とみられるから、信教の自由の保障の範囲外であり、一般取引社会において要求されるのと同程度の公正さが献金勧誘行為においても要求されるものである。

4  以上を全体として総合的に判断すれば、被告の献金勧誘のシステムは、不公正な方法を用い、教化の過程を経てその批判力を衰退させて献金させるものといわざるを得ず、違法と評価するのが相当である。

四 原告市川に対する献金勧誘行為について

1  《証拠略》によれば、奈良カルチャーセンターの概要は、以下のとおりである。

(一)  宇治田は、平成元年一月ころから正式に被告の信者となり、様々な活動を行ってきたが、主な活動としては、<1>平成三年一月からマイクロ隊に所属して珍味売りに従事し、<2>平成三年六月から、大阪府堺市内の真仏弥勒堂という教育店舗に所属して仏壇仏具の訪問販売に従事し、<3>平成三年九月から、奈良県橿原市内のビデオセンターに本拠を置く奈良南教区(被告の主張によれば、奈良南信徒会)に所属し、新規隊として婦人に対する伝道活動として、婦人を勧誘してビデオセンターまで連れて来るという役割を担い、<4>平成四年一月から奈良北教区(被告の主張によれば、奈良北信徒会)に所属し、奈良カルチャーセンターにおいて、婦人に対する伝道や保育を担当するようになった。

宇治田は、<2>の真仏弥勒堂における物品販売活動の際に店長や班長クラスの者から教わって実践していた姓名判断、手相判断、セールストーク等の方法を、<3>及び<4>の婦人伝道の際にも利用していた。

(二)  この婦人伝道の具体的方法については、《証拠略》によれば、以下のとおりである。

(1) アプローチ

対象者を賛美し、内情を話してもらい、心情交流をする。

(2) 手相

対象者の手相を見て、賛美する。対象者が先祖供養の使命者、中心人物であることを示す。会話の中で、対象者の心配事、ニードを聞き出す。

(3) 姓名判断

対象者を賛美し、会話の中で、対象者の心配事、ニードを深くつかむ。姓名判断の紙に姓名とその画数や画数を合計した数値を記入し、数値と数値を結びつける因縁線や、色情因縁、殺傷因縁等の言葉を赤字で記入する。この際、姓名判断の法則に従えば悪い因縁が出ていない場合であっても、無理矢理悪い因縁が出ていることを示すなどして、ニードと因縁を結びつける。対象者の因縁の理解度を確かめるため、先祖のしたことが子孫の代により悪い結果となって因縁が出ているという具体例として、強姦を繰り返した大久保清の例などを挙げて話をする。

(4) 転換期トーク

「今は対象者の運勢は上向きで幸福に向かっているのに対して、対象者の一家は三、四代前から栄えていたが、今はそのときと比べると運勢が下がってきており、両方の運勢が交わっている今は転換期である」、「対象者の運勢で一家の下がっている運勢を上げていける」、「転換期はいつもこないので、今、何とかしなければいけない」、「今何とかしないと絶家になる」などと言う。

(5) 家系図

対象者に三代くらいの家系図を記載させ、親族に起こった病気や離婚等の問題点を因縁として把握させ、因縁を解決しなければならないことを意識させる。

(三)  以上の方法は、前記認定した被告において全国的に行われてきた勧誘方法とほぼ共通のものである。

(四)  また、奈良カルチャーセンターのパンフレットでは、「満ち足りた人生のために」という大見出しのもと、人生、因縁、真の愛、教育、仕事、世界についてを受講内容として紹介しており、奈良カルチャーセンターのアンケートはがきでは、あるべき家庭の姿について考える文化講座である旨紹介していて、宗教団体であることや、被告の名前は示されていない。

2  《証拠略》によれば、原告甲野に対する献金勧誘行為の内容等は、以下のとおりである。

(一)  原告甲野の身上、性格

原告甲野は、平成四年当時五八歳の主婦であった。原告甲野の夫は、昭和六〇年ころから原因不明の難病である「進行性核上性麻痺症」にかかり、平成三年夏ころからは自宅において寝たきりの状態になった末、平成四年一月二六日に死亡した。原告甲野には二人の子がいたが、その長女は結婚して別居し、長男は東京で生活していて、原告甲野は、夫を亡くした後、一人暮らしをしていた。

原告甲野は、夫を亡くした直後に看病疲れのため胃潰瘍となり、同年二月三日から同年三月四日ころまで入院し、退院後も体調がすぐれない状態が続いていたため、定期的に通院治療を受け、週に一回程度パートとして働いていた。原告甲野には三〇歳を超える長男がいたが、未だ独身であったためその結婚について心配していた。

原告甲野は、以前に、友達から悪いことが起こったりするのは因縁のせいであると聞いてその話を信じており、夫が病気で苦しむようになって以降は、四国の先生にお祓いをしてもらうことを考えたりしていた。

(二)  カルチャーセンターへの勧誘

和泉由紀は、同年五月二六日、原告甲野宅を訪問し、まず、門の所において、原告甲野に対し「いい顔の相してますね」「先生していらっしゃるんですか」などと言い、さらに「手を見せて下さい」などと言って、原告甲野の手を見た上「何か心配事あるみたいですね」などと言った。次いで、原告甲野は、和泉から求められて同人を家の中に入れ、そこで、和泉に対し、夫が四か月前に病気で苦しんで亡くなったこと、その後自分が入院したこと、長男が三〇歳を超えてもまだ独身であるのが気がかりであることなどの悩みを話した。これに応じて、和泉は、原告甲野に対し「悪いことが続いたりするのは、因縁というものがあるからなのよ」「今勉強することによって、因縁が取れる」などと言って、奈良市大宮町六丁目二番一五号リバティビル二階の奈良カルチャーセンターに勉強に来るようにと勧めた。

その際、原告甲野は、自身が和歌山県にある浄土真宗の寺で生まれていて、仏教以外の宗教は嫌いであり、それまでにも宗教団体等が年に五、六回以上勧誘に来ていたので、念のために「仏教以外の宗教は嫌いやから」と言ったところ、和泉から、「宗教ではないですよ、勉強してあれするところだから」と言われた。また、原告甲野は、同日、和泉から「口約束だけだと行かなくなるので」と言われて、受講料の一部として五〇〇〇円を和泉に対して支払った。

(三)  カルチャーセンターでの教育

(1) 原告甲野は、勉強をして因縁を取るため、和泉が訪問した日の翌日である同年五月二七日から奈良カルチャーセンターに通い始めた。

受講当初に、原告甲野は、菊井から、亀の甲アンケート類似の形式で趣味、性格、貯金額等を聞かれ、預金が五〇〇万円以上あると答えた。さらに、原告甲野は、菊井から三代前からの因縁を解明する必要があると言われ、三代前までの家系図を作成した。

この点につき、証人溝口は、奈良カルチャーセンターにおいて、住所、年齢、家族、受講内容の希望等を記載する自己紹介カードは書いてもらったが、亀の甲アンケート類似のものは実施していないと供述するが、前述のとおり、財産の把握はほぼ全国共通に行われていたものであり、被告の教義に照らしても重要なものであることからすれば、証人溝口の供述は採用できない。

(2) 原告甲野の受講内容はビデオ受講簿等によれば、別紙1記載のとおりであり、その平均的な受講形態は、一回約三時間、平均二本のビデオを見て、そのビデオの感想文を書くとともに、ビデオを見る前後に溝口と話をするというものだった。

受講動機は、勉強をして因縁を取るためであった。

(3) 原告甲野は、二回目の受講日である同年五月二九日に、受講料五万円を支払った。

(4) 原告甲野は、何回かビデオを見た後の菊井との面接において、原告甲野が三代前の祖父が浮気をしたという話をすると「色情因縁がある」、原告甲野が夫の父母及び祖父母に子供がいないという話をすると「絶家の因縁がある」などと言われた。また、原告甲野は、担当者から自分の代で因縁を取り除いておかないと孫子に因縁が出てくるなどと言われた。

(5) 原告甲野は、溝口から、今勉強していることを長男に話さないようにと言われた。

(6) 原告甲野の一番印象に残っているビデオの内容は、自分は悪いことをしていなくとも、何代か前に悪いことをしているために、孫子の代に不幸が押し寄せてくるというようなものであった。

(四)  原告甲野は、同年六月一八日ころ、溝口から誘われて、溝口、和泉と一緒に奈良県天理市喜幡町六〇〇所在の奈良健康ランドに行き、楽しく時を過ごした。

(五)  同年六月二二ないし二三日ころ、原告甲野宅において、原告甲野、溝口、「先生」と称する竹内(以下「竹内」という)ら同席のもと、供養祭が行われた。その際には、竹内が祈祷をしたり、皆で「ふるさと」という歌を唱和したり、原告甲野が亡くなった夫宛の手紙を読み上げたりするなどし、原告甲野は、涙を流して感動していた。

(六)  被告への入会

原告甲野は、同年七月一八日ころ、「主の路程」という文鮮明が様々な迫害を受けながらもこれを乗り越えていくという内容のビデオを見せられて、被告や文鮮明のことについて明かされた。しかし、当時、原告甲野は被告や文鮮明のことについて知らなかった。

その後、原告甲野は、同年七月二一日、奈良市芝辻町四丁目一一所在の被告の奈良教会へ行き、そこでお祈りのようなことをした後、被告への入会書に署名をした。

原告甲野は、同年七月二一日か同月二二日ころ、溝口から「いよいよ霊界解放ですよ」と聞かされていた。

(七)  献金に至る経緯

同年七月二三日、原告甲野が奈良カルチャーセンターに行くと、午後一時過ぎころ、溝口から近くの奈良市大宮町六-三-二九阪奈ビル六一〇号室に連れて行かれた。

そこで、原告甲野、竹内、溝口、久保某が同席して祈祷をしたり、竹内が原告甲野に対して献金の意義等の話をするなどして、いわゆる「霊界解放」が行われた。

次いで、原告甲野は、竹内らから、「今持っているお金は汚れたお金だから、せっかく霊界解放もできたことだし、全部神に捧げて下さい」「せっかく霊界解放ができたのに、お金を神に捧げないと、また元に戻る。孫子に同じような苦しみが繰り返す」「お金を出して、ちゃんと因縁がとれたら、息子さんの良い結婚相手も見つかりますよ」などと言われた。

また、久保からは、自分はお金がないので奉仕活動をしていると言われた。

原告甲野は、約三〇分して竹内が退席した後も、引き続いて溝口と久保から説得された。

原告甲野は、夕方ころになり、出すと言わなければ帰らせてもらえないという感じがしたこと、溝口の表情がいつもと違って厳しく、原告甲野が献金すると言わないと、溝口の竹内に対する立場がないというような感じだったこと、献金しないと一旦取れた因縁が元に戻るのではないかなどと大変心配になったことなどから、献金することを承諾した。

献金額につき、原告甲野は、最初、五〇万円くらい出すと言ったが、原告甲野の所持金が四〇〇万円であると聞いた溝口から、「それでは少ない」「全部出しなさい」と言われた。これに対し、原告甲野が「主人の一周忌もしなければいけないし、息子の結婚にもお金がかかるし、全部はとても出せない」と言ったところ、溝口から「せめて半分くらいは出しなさい」「出しにくかったら銀行と交渉してあげますよ」と言われた。

原告甲野は、もう出すと言わないと帰してもらえないのではないかという感じがして、やむなく「二〇〇万円」と言ったところ、溝口は原理教の説明をした上「二〇〇万円は悪い数字だから二一〇万円にしておきなさい」と言い、結局二一〇万円献金することに決まった。

さらに、原告甲野は、溝口から「半分しか出してないから、残りのお金を持って来なさい。清めてあげます。半年間預かっておきます」と言われ、四〇〇万円から二一〇万円を控除した残りの一九〇万円を溝口に預ける約束をした。

なお、証人溝口は「半分くらいは出しなさい」「銀行と交渉してあげます」「二〇〇万円は悪い数字だから二一〇万円にしておきなさい」などとは言っていないし、当初、原告甲野から五〇万円くらい出すなどとは聞いていないと供述するが、原告甲野の具体的な供述に照らし採用できない。

(八)  献金

翌七月二四日、原告甲野は、南部銀行の定期預金一〇〇万円を解約し、郵便局から定額貯金を担保にして一二〇万円を借り入れ、合計二二〇万円の現金を用意し、うち、二一〇万円を献金することにし、溝口と一緒に被告の奈良教会へ持参して献金した。

同日、その後、阪奈ビルにおいて、祈祷が行われ、原告甲野は竹内から石板をもらった。

この点、原告甲野が石板をもらった日については争いがあるが、原告甲野の日付に関する記憶は曖昧であること、ビデオ受講簿の七月二四日欄には奉納式と記載があり、献金に伴い何らかの儀式が行われ、献金と対価的に石板が交付されたと解するのが自然であることからすれば、石板が交付されたのは七月二四日であると認められる。

翌七月二五日、原告甲野は四〇〇万円の残金に当たる一九〇万円を溝口に預けた。

(九)  脱会

原告甲野は、何度か自宅を訪問した溝口から誘われたが、同年七月二五日を最後に以後はカルチャーセンターに行かなくなった。

その理由は、お金を取られたというか又は神様に捧げたということもあるが、因縁を取ってもらった以上、行く気がなかったとのことである。

原告甲野は、平成四年八月下旬ころ、桜田淳子が統一協会の合同結婚式に参加したこと(平成四年八月二五日実施)に関する報道を見て、初めて、被告及び文鮮明の実態を知り、息子に連絡をした。

その後、原告甲野は、平成五年一月ころ、溝口に対し、一九〇万円については返還を求め、これを無利息で返してもらった。二一〇万円については、息子ももういいじゃないかと言っていたので、その時には溝口に対して返還を求めなかった。

また、時期は定かではないが、原告甲野は、原告宅を訪問した溝口に対し、息子の縁談が決まったことを報告していた。

3  原告甲野に対する献金勧誘行為の違法性

以上の原告甲野に対する献金勧誘行為は、前記三で認定した被告の違法な献金勧誘システムに基づくものであることが認められる。具体的に検討すると、予め財産の把握が行われた上、執拗に献金の勧誘が行われていること、勧誘の当初において宗教であることを明確に否定していること、原告甲野の身上及び本件献金勧誘行為を受けた当時の健康状態及び精神状態に照らせば、因縁話等による不安感等を覚えやすい状態にあったものといえるところ、家系図を示して具体的にかつ執拗に因縁話がなされ、原告甲野の受講内容は、六回に及ぶ竹内のカウンセリングや、二日連続の個人路程(人生の中での出来事を告白文のような形で書かせるもの)など、個人の抱える悩み等を十分聞き出した上で、これに応じた因縁話等をするという内容であり、原告甲野の不安感を助長させていること、姓名判断が用いられていない外は奈良地区におけるマニュアルに沿った勧誘方法が行われていること、奈良カルチャーセンターでの受講につき他言を禁じられたことなどの点が認められる。

以上からすれば、被告の原告甲野に対する献金勧誘行為には違法性がある。

4  原告甲野の損害

前記認定によれば、原告甲野は、被告の違法な献金勧誘行為によって、次の損害を被ったことが認められる。

(一)  献金相当額 二一〇万円

(二)  弁護士費用 二五万円

本件事案の内容、審理の経過、認容額等を考慮すれば、被告に負担せしめるべき弁護士費用は右の額とするのが相当である。

(三)  以上により、原告甲野の請求は、合計二三五万円とこれに対する不法行為の後である平成六年五月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある。

五 原告乙山に対する献金勧誘行為について

1  《証拠略》によれば、東大阪カルチャーセンターのシステムの概要は、以下のとおりである。

(一)  林仁美は、昭和六〇年ころから平成四年まで、被告の会員であったが、そのうち、東大阪カルチャーセンターに所属していた時期には、婦人に対する伝道活動として、婦人を勧誘してカルチャーセンターまで連れて来るという役割を担っていた。

その具体的方法としては、姓名判断として、姓名の画数や画数の合計等の数値を記載し、数値と数値を結びつける因縁線を引いて、三〇パターンある因縁相に当てはめて、因縁話をしていた。因縁相の中には、<1>「家庭衰運」として「三代前までは盛家、次第に運勢衰退才能発揮できない、思わぬ病気等でチャンスをのがす」、<2>「色情因縁」として「異性問題に苦しむ、色情問題で家庭破壊、浮気、妻自殺」、<3>「子縁うすい」として「子供生まれにくい、生まれても早死、男子育ちにくい、あとつぎにめぐまれない、絶家」などがあった。

東大阪カルチャーセンターにおいては、毎月の獲得目標金額が決められ、その額は一億円以上のこともあった。

また、同カルチャーセンター内には、各ゲストについて、<1>献金までの予定(1DAY、仮クロージング、クロージング(献金額決定の日)、XDAY(財産を捧げなければならないことを決意させる日)等)、<2>ウイークポイント(ニード)、<3>献金目標額等を記載した表が張り出されていた。その献金目標額は、予めゲストがカルチャーセンターに来た当初にその財産を把握し、その情報を基に、担当者(ヨハネ役等)が所持金額より上の金額と所持金額より下の金額を言って反応を見て上位の者(タワー長)に報告し、上位の者が献金目標額を決定するというものだった。

(二)  以上の方法は、前記認定した被告において全国的に行われてきた勧誘方法とほぼ共通のものである。

(三)  原告乙山がいた当時の東大阪カルチャーセンターの所長である中井完は、姓名判断はお客様の求めに応じてサービスとしてしていたもので、販売のための手段ではない、マニュアルは熱心な販売員が個人的に作成したものにすぎないなどと供述するが、前記認定のとおり、姓名判断は、伝道活動のきっかけとして全国各地で利用されてきた手段であることに照らすと、中井の供述は採用できない。

また、証人上西及び中井は、東大阪カルチャーセンター内に、対象者の献金までの予定、ウイークポイント、献金目標額等を記載した表が張り出されていた事実等を否認するが、前記認定のとおり、全国各地で同様にして目標額等が定められ、計画的に勧誘が行われていたことに照らすと、証人上西及び中井の供述は採用できない。

2  原告乙山に対する献金勧誘行為の内容

《証拠略》によれば、原告乙山に対する献金勧誘行為の内容等は、以下のとおりである。

(一)  原告乙山の身上、経歴、性格

原告乙山は、平成五年当時三一歳であり、平成三年三月に結婚した後、平成五年四月に高校卒業以来勤務していた会社を退職し、専業主婦になったところであった。

原告乙山は、子供ができないこと、夫よりも自分の給料が多かったことなどから夫との仲が悪く、仕事を辞めたが、これでいいのかという気持ちが残り悩んでいた。また、原告乙山は、幼少のころ下半身不随の障害者である母に対して冷たく接してきたことに対して、現在では強い自責の念を抱くようになっていた。

原告乙山は、現実的で理屈っぽいところがあり、霊界等の見えない世界の話については、自分で納得できるまでは前へ進まないという性格であった。

なお、原告乙山は、平成七年二月に離婚した。

(二)  カルチャーセンターへの勧誘

原告乙山は、平成五年六月二四日ころ、会社に同期で入社した丙川春子から電話で、「占いをしてもらわないか」と誘われ、同月二六日、丙川に伴われて大阪府東大阪市枚岡所在のマンション内の「宝珠」という店に行った。

そこで、原告乙山は、占い師役の女性から「家系図を見てもらったら」、「急ぐから」などと言われ、翌日に家系図を見てもらう約束をした。

翌六月二七日、前日とは別の占い師役の河方から「先祖が今までの恨みのようなものをもっていて、子供ができない」「因縁で子供ができない」「色情因縁がある」「結婚が一回で済まない家系や」「兄が独身なのは、先祖が守っている。……一人目の妻が死ぬ時期を避けるように(兄が独身なのは一人目の妻が死ぬという時期を避けるため、先祖が結婚を遅らせているなどという意味)」「子供ができないのは、両方の家系とも「絶家」に入っているからや」「お父さんの未入籍の先妻が、あなたのお母さんの不幸を半分もっていってくれたんや。だからお母さんは半身不随だけで済んだのや」「今、あなたがここにいるのは、先祖の願いがあなたにきているからです」「ご主人の家系より乙山の家系の方があなたに頼っている」「霊界を解放してやるのに勉強しないといけない」などと言われた。

同席していた丙川も、原告乙山に対して「頑張り、頑張り」「私も勉強して子供が授かったのよ」「自分を変えるチャンスよ」「急がなあかん。早よし」などと言って、原告乙山に勉強する決意を促した。

そこで、原告乙山は、占い師役の女性の勧めに従い、大阪府東大阪市高井田元町二丁目七-七栄進長栄寺ビル所在の東大阪カルチャーセンターに通って勉強することにした。

(三)  カルチャーセンターでの教育

(1) 原告乙山は、同年六月二八日、金井から「ここに通っていることは、ご主人にも内緒にして下さい。こういう世界は女の人には分かるが、男の人には分かり難いし、今説明しようとしても説明できないでしょ。何時か言える時が来るから」と言われて、口外することを禁じられ、同日から、東大阪カルチャーセンターに通い始めた。また、原告乙山は、同日、貯蓄の項目を含む亀の甲アンケート類似のアンケートに答えた。受講内容は別紙2記載のとおりであり、平均的な受講形態は、一時間ビデオを見て、その後、一時間担当者と話をするというもので、原告乙山は受講内容につき逐一ノートに記録していた。

原告乙山は、同日、コース代として一〇万円を支払った。

(2) 原告乙山は、同年七月七日、同日から同月二九日までの受講予定を記載してあるスケジュール表を渡された。同表の七月二九日欄には、ビデオ受講の予定が入っておらず、「先生」とのみ記載されていて、このころから同日が霊界解放の日であると予定されていた。

(四)  被告への入会

原告乙山は、同年七月二六日午前中、主ゼミの中で、東大阪カルチャーセンターが被告の組織であることを明かされた。

原告乙山は、マスコミ等の報道で被告がインチキ宗教であるとの印象を持っていたため、ショックを受け、山口らに怒って問い質すなどした。これに対して、周りの者は「私も信じられなかったけれども」などと言ったり、上西はマスコミの批判報道(合同結婚式、霊感商法、法外な献金要求等)についての説明をしたりなどし、原告乙山は、マスコミの話とは違うものじゃないかなと同人なりに納得をし、同日、被告への入会書に署名した。

原告乙山は、同月二七日ころ、上西から、「霊界解放の日は七月二九日です」と言われていた。

(五)  同年七月二三日には戊田家の、同月二七日には乙山家の各供養祭が行われた。その際には、原告乙山自身が、供え物を用意したり、自ら書いた先祖宛の手紙を読上げたりした上、参加者全員で先祖を慰める祈りをするなどした。

原告乙山は、乙山家の供養祭の際には、涙を流して感動していた。

(六)  献金に至る経緯

原告乙山は、同年七月二八日、最初に家系図を見てもらった人や山口、古田などから「私は一〇〇〇万(円)やった。本当は言ったらいかんのやけど」「初めのアンケートに〇〇円あると答えていたね」「大丈夫よ。神さんが見ていることやし」「絶対ある額しか言われないよ」「私も一〇〇〇万(円)無理やと思ったけど、かき集めたら何とかなった」「神に認めてもらうためには、自分の一番大切なものを捧げないといけない。いま、人間にとって一番大事なものはお金でしょ」などと言われた。また、原告乙山は、山口らから、いくらぐらい献金ができるか尋ねられ、所持金が五二〇万円であると答えていた。

さらに、同年七月二九日、上西から「先祖が全員地獄にいる。恨みの世界にいる。そこから明るい世界に出ることを先祖が願っている。霊界解放ができればあなたも因縁を絶てる。子供にも恵まれ生まれてくる子供も大丈夫です」と言って、五二〇万円と七〇〇万円という数字を示されて、被告への献金を勧誘された。

この時、上西から「苦しみたくないでしょ」とか「お金は、日韓トンネル等世界のために使われる」「以前アンケートにお金をもっていると書いたでしょ」「今日中に出さないと駄目です」などと言われた。

原告乙山は、献金すれば霊界解放ができ、母に対する自責の念から逃れることができ、死後、幸せになって地獄に行かなくて済む、あるいは、こうしたものから逃れるには献金するしかないと思って五二〇万円の献金をすることを決意した。

原告乙山は、献金はその日じゃないと駄目だと言われたので、同日、郵便局の定額・定期貯金を解約するなどして五二〇万円を準備し、東大阪カルチャーセンターにおいて上西と山口に対し、五二〇万円を渡した。

その後、原告乙山は、山口に対して、献金が出来たことを喜んで報告した。

(七)  原告乙山は、献金後も東大阪カルチャーセンターに通い、同年八月一九日には、カルチャーセンターの近くにある東大阪市高井田元町二丁目にあるサンケイビルの一室にある東大阪教会へ挨拶に行った。

同年八月二〇日には、同年九月三日から始まるトレーニングへの参加準備のため、受講場所が一階から三階に変わり、担当者も山口から中島キョウ子に変わった。

原告乙山は、同年八月二七日、大阪市南区の心斎橋ホテルで開催された「創美会」という着物の展示会に誘われて行き、購入を勧められたが、初めから買わないという態度で通し、購入しなかった。

(八)  脱会

同日以降、原告乙山は、東大阪カルチャーセンターに行かなくなり、被告の問題を報道していたテレビ局の紹介で知り合った森田牧師の話を聞いて、被告が誤りであると認識し、被告と決別した。

3  原告乙山に対する献金勧誘行為の違法性

以上の原告乙山に対する献金勧誘行為は、前記三で認定した被告の違法な献金勧誘システムに基づくものであることが認められる。具体的に検討すると、統一協会であることを明確に否定して献金勧誘行為が行われていること、予め財産の把握がなされ、これに基づき献金額及び献金に至るまでのスケジュールが決められていたこと、家系図を示すなどして具体的に因縁話が行われていること、受講につき他言を禁じられていることなどが認められ、以上によれば、原告乙山に対する献金勧誘行為には違法性がある。

なお、主体が被告であることを明かされる以前において、原告乙山が被告の因縁話等により詐欺的に宗教へと誘い入れられ、受講料相当額を出捐させられた点についても、右違法な献金勧誘行為と因果関係のある損害と認められる。

4  原告乙山の損害

前記認定によれば、原告乙山は、被告の違法な献金勧誘行為によって、次の損害を被ったことが認められる。

(一)  受講料相当額 一〇万円

(二)  献金相当額 五二〇万円

(三)  弁護士費用 五五万円

本件事案の内容、審理の経過、認容額等を考慮すれば、被告に負担せしめるべき弁護士費用は右の額とするのが相当である。

(四)  以上により、原告乙山の請求は、合計五八五万円とこれに対する不法行為の後である平成六年五月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある。

第五 結論

以上の次第で、原告らの請求は、原告甲野が金二三五万円、原告乙山が金五八五万円及び右各金員に対する平成六年五月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条ただし書を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 石原稚也 裁判官 田口治美)

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